賃金台帳のエクセル管理には無駄が多く限界がある
新人人事必見!賃金台帳の記載事項、書き方、関連法規まとめ。エクセル管理はもう古いって本当?
この記事を見つけたということは、なにか賃金台帳について調べているのだと思います。
この記事では、賃金台帳とは何か、というところから、どうすれば効率的に賃金台帳を管理して、法律で定められた要件を満たすことができるのか、新人担当者でもこれを読めば全てわかり、スムーズに業務を進められるように詳しく解説しています。
賃金台帳とは
まず、そもそも賃金台帳とはどのようなものなのか解説します。
法定三帳簿のうちの一つ
賃金台帳は「法定三帳簿」のうちの一つであり、労働基準法により作成及び保管が義務付けられている文書です。企業の規模や従業員数に関係なく、すべての会社が対象となるものですので、賃金台帳が存在しない会社というのはありえません。各従業員ごとに台帳を作成し、後述する定められた記載内容を記載するものです。
なお、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿の3つを総称したものが「法定三帳簿」と呼ばれています。労働者名簿は日雇い労働者以外の全ての労働者の氏名や住所等を記録するもの、出勤簿は管理監督者等以外の全従業員が対象となり、出退勤の記録をするものです。
この法定三帳簿の中で「例外なくすべての従業員が対象」となり、そして労働者への給与という労働者にとって最も重要となる事項を扱うとても大切な帳簿が賃金台帳です。
・労働基準法により作成義務がある
賃金台帳は「すべての役員・従業員」が対象
すでに上でも述べたとおり、賃金台帳は全ての役員・従業員が対象となります。アルバイト、パートはもちろん、代表者本人や日雇い労働者など全ての給料又は役員報酬を支払うものに対して作成する必要があります。
まれに役員だけの一人会社だから作成する必要がないと考えている方もいらっしゃいますが、そんな事はありません。すべての会社に作成義務があるのです。
給与明細との違い
給与明細を賃金台帳代わりにすれば良いと考えている会社もありますが、賃金台帳は記載しなければならない項目が法律により定められており、その項目をすべて満たさないと違反となってしまいます。給与明細がそれら項目を全て網羅しているのであれば問題ありませんが、そうではないケースもありますので基本的には両方別で作成することとなります。給与明細は従業員の方にとってわかりやすい内容・様式として、賃金台帳は法律を満たす内容・様式というもともとの考え方が違うので分けるのがベターでしょう。
賃金台帳の保存期間
保存期間は最後の記入後3年間と法律により定められています。電子的な媒体、つまりデータで保存することは問題ありませんが、その場合はいつでもすぐに表示、印刷できる必要があります。
(労働基準法109条、労働基準法施行規則第56条)
賃金台帳の罰則
賃金台帳を正しく作成・記入し、保管していなかった場合は労働基準法違反となります。労働基準法第108条により30万円以下の罰金が課せられることとなります。
作成していなかった場合はもちろん、項目が不十分だった場合も違反となるため注意が必要です。
実務的には即罰金刑となることはなく、労働基準監督署より是正勧告を受けることとなります。その場合は是正期日までに書類を用意した上で、是正報告書とともに提出することになります。
賃金台帳のエクセルテンプレート
賃金台帳といえばエクセルと思っているかもしれません。
厚生労働省労働局でもエクセルでテンプレートを配布しており、それを使っている会社も少なくないでしょう。この様式は「様式第20号」とされ、この様式で作成しなければならないと思っている方もいるかも知れませんが、そんなことはありません。記載事項だけ満たしていれば、フォーマットは自由です。
実際に「厚生労働省」の様式と「厚生労働省東京労働局」の様式を以下に並べますが、異なる様式となっています。
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/d.pdf)
(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/standard/relation/19.pdf)
主要様式ダウンロードコーナー|厚生労働省
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)
様式集 | 厚生労働省東京労働局
厚生労働省東京労働局のウェブサイトにはPDF版だけではなくエクセル版もあることから、テンプレートとして活用することも可能です。ただし、これらのエクセル様式は保管及び印刷を目的としているものであることがほとんどであり、自動計算などの機能はついていないことに注意が必要です。
賃金台帳の記載事項
賃金台帳の記載事項は労働基準法で定められています。この記載事項が全て記載されているのであれば、どのような様式で保管していても問題ないこととなります。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 休日労働時間数
- 深夜労働時間数
- 基本賃金
- 所定時間外割増賃金
- 手当(あれば/以下は一例です)
- 役職手当
- 時間外手当
- 固定残業手当
- 住宅手当
- 皆勤手当
- 資格手当
- 家族手当
- 昼食手当
- 通勤手当(非課税)
- 臨時給与(あれば)
- 賞与(あれば)
- 控除(以下は一例です)
- 所得税
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 労働組合費
- 実物給与(あれば)
これらの項目のうち、控除や手当、臨時給与、実物給与などは実際に発生したものを全てもれなく記載します。ですので、項目については各社それぞれある程度異なったものになります。
給与明細との大きな違いとしては、労働時間数を内訳ごとに細かく記載することがあるでしょう。これは、労務管理が正しく行われており、それに基づいて正しく残業代を支払っているということを示すためにもとても重要な記録であり、法律により記載が求められている内容です。
賃金台帳のエクセル管理はもう古いって本当?
従来は多くの会社が賃金台帳をエクセルにより管理をしていました。実際に、現在でもエクセルでの賃金台帳を推奨する記事がたくさんありますし、労働局もエクセルでの様式を配布しています。
手書きで作成していた賃金台帳を印刷するためにエクセルに入力することから、賃金台帳のエクセル化が始まったと考えられます。当時は手書きのものをきれいに印刷し、そして電子データで保存できるということで最も良い方法だったことでしょう。
しかし、賃金台帳のエクセル管理には以下のようなデメリットがあります。
- 印刷のためだけにエクセルを使用する場合は、すべての計算は手作業で行う必要がある。
- データのコピーが容易で流出危険性あり
- 身代金型コンピュータウイルスなどにより読めなくなる可能性あり
- 1人会社であればよいが、社員数が複数人になると一気に大変になる
- 一人しかマスターデータを開けない、同時編集などができない
- Macでは開けない
更に、自動計算機能がついているエクセルの場合、以下のような注意点があります。
- シートが分かれているなどしてテンプレートごとに操作方法が異なる
- テンプレートが更新され続けないものもある
- 料率変更時にマスターデータの入れ替えなどが発生する。エクセルに詳しくないと間違えやすい。
- 計算式などをわかっていないと計算間違いとなる可能性あり
- マスターデータの入れ替えや、年次更新などの引き継ぎが大変になる。
そして、給与明細と賃金台帳がそれぞれ別のエクセルで計算されていると、それぞれの計算結果が微妙に異なることがあり、目視チェックが大変になります。賃金台帳と給与明細の両方が出力できて、使いやすく、ずっと更新され続けるテンプレートを探すのはかなり大変です。
この中でも、特に計算式は料率変更や法改正によりかなり頻繁に変更する必要が出てクリため、途中でテンプレートの更新が止まってしまうと新たにデータを作らなければいけなくなりますし、計算式や料率の入れ替え作業などはエクセルにある程度詳しくなければ難しく、担当者が変わるとできなくなるというリスクもあるでしょう。
また、昨今では身代金型コンピュータウイルスと呼ばれるものも増えてきており、感染するとパソコン内のデータが全て暗号化されてしまい、高額な身代金を支払わなければ解除できないというものもあります。また、データ流出時は個人情報が流出するなど、インターネットが当たり前になった現代ではデータの管理という面でもかなりのリスクを伴うことになりました。
単に紙で行っていた業務を印刷ができるようにフォーマットするだけであればエクセルで良かったのですが、それだけでは時代遅れと言えるのではないでしょうか。
業務効率化につながる賃金台帳管理方法の選び方
では、どのような賃金台帳であれば効率的に業務ができるようになるのでしょうか。法律で定められている重要な文書でもあるので間違いがあってはいけませんし、あまり時間がかかり管理が煩雑になるのも避けたいですよね。
こんな賃金台帳管理であれば業務効率化がかなり進むはずです。
- 控除などの計算は自動で行われ、かつ給与明細も同時に作成できる
- 毎年自動で内容がアップデートされ、意識しなくてもよいのが良い
- 従業員数が増えても大変にならない
エクセルの関数に詳しい方であれば、エクセルでもできなくはないのですが、いつかは後任者に引き継ぐ可能性などを考えるとエクセルなどのIT知識がなくても、そして税務関連の知識がなくてもきちんと帳簿を作れるような仕組みが理想ではないでしょうか。
実は給与計算ソフトを使うとそのあたりを全て解決して、業務を効率化することができるのです。最近は無料で使える給与計算ソフトも増えてきましたので、活用してみるのも良いでしょう。今まで手作業で行っていた業務や、エクセルと格闘していた時間が嘘みたいに効率化するので感動すると思います。