給与計算ラボ

給与計算、社会保険と税金の知識

給与明細の作成方法2(控除額の計算について)

給与明細を作成し、給与を支給するためには勤怠管理、残業代などの計算、税金や社会保険料の計算、そして納税と様々な作業が必要となります。

一つ一つの要素について詳しく書かれた記事はたくさんありますが、その全体像がなかなか把握できないことでなかなか理解が進まない、そういう方も多いのではないでしょうか。

それらすべての業務が、これから給与計算をする人でもわかりやすい形で説明していきます。

勤怠管理から支給額(残業代や手当を含む)の計算については前編として「給与明細の作成方法前編~勤怠管理、支給額の計算方法」で解説しました。

今回は後編として、支給額が全て計算終わったところ以降の手順について解説します。

各種控除額の計算方法

総支給額が決まったあとは、控除額を計算していきます。

控除には「所得税」「住民税」「社会保険料」「労働保険」といったものがあります。

それぞれの控除額の計算方法を見ていきましょう。

社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)の計算方法

まず社会保険料の計算方法から見ていきましょう。

なぜ社会保険料から?と疑問に思った方もいるかも知れませんが、社会保険料の金額が決まらなければ、所得税の計算ができないからです。

社会保険料は給与にある一定の割合をかけ合わせて金額が決定されますが、その給料も「標準報酬月額」というもので計算します。

標準報酬月額とは、給料を段階ごとに区分したものであり、4月から6月までの支給額の平均値から決定し、それを9月以降1年間通じて使用することとなっています。新入社員の場合は給料と残業代などを合わせた支給額を想定し、その想定金額に基づいて決定し、9月以降(6月以降入社の場合は翌年の9月以降)は4~6月の支給実績に基づいた金額となります。なお、昇進など給与額に大きな変動があり、2等級以上差が生じた場合には随時改定という改定手続きを行います。

厚生年金保険の計算に用いる標準報酬月額表は日本年金機構が公表しています。

表の中に保険料月額が示されており、その金額の内従業員負担額を給与から控除をして、会社負担分と合わせて後日納付を行うこととなります。例えば、支給額が208,000円の社員の場合、標準報酬月額は20万円となり、厚生年金保険料は36,600円です。この内、50%に当たる18,300円を給与から控除するということになります。

参考:日本年金機構 | 保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)

(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.html)

健康保険及び介護保険の場合は、その保険組合ごとに標準報酬月額表が異なります。各健康保険組合が定める標準報酬月額表を利用して控除額を決定します。

所得税(源泉所得税)の計算方法

所得税は、本来は個人に課税されるものですが、会社が源泉徴収を行い給料から預かり、代理納税を行う事になっています。この、給与から会社が差し引く所得税のことを源泉所得税といいます。

毎月源泉徴収する所得税額は、「給与所得の源泉徴収税額表」として国税庁が発表している表に基づいて決定されます。

参考:国税庁 | 令和3年分 源泉徴収税額表

(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2020/02.htm)

支給額から社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)を控除した金額により源泉徴収税額が決定されます。税額は甲欄と乙欄により異なる数値となります。

甲欄とは、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出している方に適用されます。主たる給与の支払先であれば、こちらになります。その場合は、扶養親族等の数に応じて源泉徴収金額が異なります。乙欄は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない場合です。

本来、扶養控除の金額は扶養対象者の年齢などにより異なりますが、毎月の徴収ではそれを考慮せずに源泉徴収を行うので、ある程度計算が簡略化されているのがポイントです。こうして計算された毎月の源泉徴収額は、いわば概算とも言える金額になっております。これを一年間分まとめて差額を調整する作業が年末調整です。

住民税の計算

次の住民税の計算方法です。実は住民税の計算は今まで説明をした社会保険料や所得税の計算方法に比べると至ってシンプルです。

まず、住民税の徴収方法には一般徴収と特別徴収の2つがあります。

一般徴収というのは、納税者が自ら支払うことです。特別徴収というのは、給与から源泉徴収を行い、企業が代理で納税をすることです。一般的には特別徴収を行うことが推奨されていますし、そうしていることがほとんどかと思います。

徴収金額については、5月頃に従業員が居住している市区町村から「特別徴収税額の決定通知書」というものが郵送されてきます。これは、前年の給与支給額から市区町村の方で計算してきた結果です。なお、給与支給額は毎年「給与支払報告書」として従業員が居住する各市区町村に提出をしている他、確定申告等のデータを元に市区町村が把握しています。

あとは基本的にはその通知の金額通りに給与から控除を行い、支払うのみです。住民税については、難しい計算は必要ありません。

年度の途中で入退社などがあった場合は、転職先に「給与所得者異動届出書」を送る、転職前の会社から送ってもらうことで特別徴収を引き継ぐことができます。そういう手続きがない場合は、一般徴収として個人で納税してもらう期間が発生することもあります。その場合は市区町村から従業員個人に納税の通知が行きます。

労働保険料の計算

最後に労働保険料の計算を見ていきましょう。

労働保険料の計算は至ってシンプルで、総支給額に決められた割合をかけて算出するのみです。月額表などを用いることはありません。

労働保険には労災保険と雇用保険の2つがあります。

労災保険は全額事業者負担であり、給与からの控除はありません。なお、労災保険の保険料率は業種により異なります。

参考:厚生労働省 | 令和3年度の労災保険率について ~令和2年度から変更ありません~

(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html)

雇用保険は0.9%となっており、0.3%が従業員負担、0.6%が事業者負担となっています。ですので、控除額としては総支給額✕0.3%となります。

給与の交付

支給額が決定し、控除額が決定しました。これで、いよいよ給与を支給することができます。給与を支給する際には給与明細を交付することが義務付けられています。また、賃金は現金かつ日本円で支払うこと、と決められています。例えば、商品券だったり、現物支給だったり、又は外貨払だったり、というのは認められないということですね。仮想通貨やポイントに寄る支払いも令和3年現在は認められていません。現在認められている方法は現金での支払い、もしくは、銀行への口座振込のみです。

また、賃金の全額払いの原則というものもあります。当たり前のように聞こえますが、例えば貸付金がある場合に相殺を行うことや、振込手数料を差し引くことなどは全額払いの原則に反するため認められません。

その他にも、一定の期日(決まった日付)で支払うことだったり、1ヶ月に1回以上支払うことだったり、給料の支払い方法には色々とルールがあります。

月の途中で入社して、今月の勤務日数は2日だけだから来月の給料と合算しよう、等はダメということですね。

給与明細には支給額の明細と、控除額の明細が記載されている必要があります。計算式までは不要ですが、それぞれの項目名と金額を明示しておく必要はあります。

特別徴収した保険料や税金の納付

給料を支払ったら終了、ではありません。

先ほど従業員の給与から特別徴収という形で控除した保険料や税金を納付する手続きが残っています。社会保険や労働保険は控除した金額だけではなく、事業者負担分も合わせて納付するのを忘れないようにしましょう。

社会保険料については毎月20日頃に保険料納付告知書が送付されます。それに基づき、月末までに納付する必要があります。口座振替の手続が可能なので、自動的に納付が行えるようにしてしまうのが良いでしょう。

源泉所得税については、毎月10日までに納付を行うこととなっています。ただ、常時給与を支給する従業員が10人に満たない場合は「源泉所得税の納期の特例」を税務署に提出することで納付回数を年2回、7月10日と1月20日にすることができます。

住民税についても源泉所得税と同様毎月10日までの納付となっており、「納期の特例」も同じ要件です。ただ、こちらは納付先が税務署ではなく従業員が居住する各市区町村ですので、全ての支払先に提出をする必要があり明日。もちろん、納付も各市区町村に対して行います。納期の特例が認められている場合は毎年6月10日と12月10日に納付を行うことになります。所得税と1ヶ月ずれているのでややこしいですね。

労働保険料については、他とは違い毎年1回、7月10日までに1年分をまとめて納付を行うことが原則となっています。保険料額が40万円を超える場合は3回に分割を行う延納という手続きがあります。労働保険だけが「原則はまとめて支払い、分割は特別」で、その他は「原則は毎月払い、特例でまとめて支払い」なっています。

給与支払業務:控除額の計算~支払い・納付手続まとめ

社会保険料、所得税、とそれぞれ全く異なる月額表を用いるという手続きなど控除の面もかなり煩雑ですよね。ただ、これらをしっかりと毎月計算して申告しなければならない、というのが給与計算業務の基本です。このあたりの計算は給与計算ソフトを活用することでかなり自動化することができるので、まだ導入されていない場合は導入を検討しても良いでしょう。逆に、既に給与計算ソフトを活用しているという方は、実際にどのような計算が行われているかの参考になったのではないでしょうか。

この記事が、給与計算業務を少しでも楽に、そして確実に行って頂く助けになれば幸いです。

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