給与計算ラボ

業種別の給与計算の注意点

旅行会社の給与計算 - 派遣社員の待遇と、添乗員の労働時間

旅行会社の給与計算の特徴と心掛けたいこととしては、まず、業界全体が低価格競争が激しく、そのしわ寄せが添乗員給与の低下に反映され、添乗員の質の低下や人手不足を招いていることがあげられます。安いツアーが出れば、人件費の関係で、自社の正社員による添乗員が付けられず、派遣社員、又は、アルバイトの添乗員をつけることになります。

ツアーの添乗員の業務は、責任がありますし、結構ハードな勤務です。しかし、派遣の場合は時給に換算すれば、他の単純な業務と同じくらいの薄給になる場合もあります。これでは、優秀な人材の確保時は難しく、新卒の人材はこないし、正社員の他の業界への人材の流出も目立ちます。

このことは、低価格競争により売上収入がへって、それが労働者の賃金に反映してくるといういかんともしがたい問題をはらんでおりますが、優秀な人材が他の業界に流れることは、産業や会社の将来を危うくすることですから、そういう状況下でも、最大限の努力をして、できるだけ高い待遇を社員に保証すべきです。

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派遣社員の待遇

第二に、この業界では、派遣社員により添乗員の業務を行うことが多いことがあげられます。しかし、この派遣社員の待遇にも相当の問題があります。最近は、やはり低価格競争による売上げの減少によるしわ寄せで、派遣先の要求に従い、業務の終了後に突然日給を切り下げたり、派遣先の要求で業務時間外に研修などの受講を義務付けておきながら、派遣元がわずかばかりの研修手当を支払って、時間外手当を支払わない場合が多くなっています。

これらは、労働法違反ですが、派遣先と派遣元の力関係上、なかなか表だって主張が出来ず泣き寝入りになる場合も多数あります。確かに、派遣先はお客様ですから、なかなか文句は言えませんが、しかし、違反は違反、そのような事態が続けば人材の流出を招き、会社の将来に大きな損失を招きます。

また、極端にひどい場合は、訴訟に発展して、この場合は明らかに敗訴しますから、会社に大きな負担をかけることになります。やはり、賃金の事後に切り下げはしない、残業代はしっかり払うなどの基本的事項はしっかりと守るべきです。

みなし労働時間の考え方

第三に、事業場外のみなし労働時間制の適用の問題があります。事業場外のみなし労働時間制とは、労働時間の全部または一部を、事業場外で労働に従事する場合などで、労働時間の算定が難しいときは、労使協定で定めれば、実際の労働時間にかかわらず、所定労働時間労働したものとみなすことができるという制度で、みなし労働時間制の一種です。

この制度が適用された場合、実際に残業が発生していても、合法的に残業代を支払わなくてもよくなります。旅行会社の添乗員の業務は、事業場(事務所)外で行われることが多いですから、一見すると、この事業場外のみなし労働時間制が適用できるとも考えられがちです。

しかし、2010年5月の東京地裁の判決で、被告の大阪市の旅行代理店が適用していた「事業場外のみなす労働時間制」を違法なものであると認め、原告である添乗員らに実際の労働時間に基づく残業代の支払を命じる判決を言い渡しました。ここでは、会社がマニュアルに規定することにより、業務の細部のにわたり指示を出して業務全体を管理していたこと、また、モーニングコールなどで遅刻を防ぐ措置を講ずるなどして労働時間を把握していたこと、以上の点を挙げ、労働時間の算定をし難い時に該当しないから、このような業務でみなし時間制を採用することは違法だというものでした。

ですから、大半の旅行会社は、携帯電話などで業務の開始や終了を報告し、添乗員マニュアル等で業務に細かい指示を出すことでしょうから、この事業場外のみなし労働時間制の適用は難しい状況であります。確かに、このみなし労働時間制は、労働時間に関する給与計算の手続きを簡略化し、業務の効率化に貢献しますが、適用を考える場合には、先の裁判例にもありますように、「労働時間の算定がし難い」という要件が厳しく問われますから、十分に検討を重ねる必要があります。

なお、特にツアー添乗員の仕事は過酷で長時間労働も多いですから、みなし労働時間制を採用しない場合、又は、それを採用した場合でもみなし労働時間と事業場内の通常の労働時間を足して時間外労働が発生する場合には、きちんと労働時間を把握して上でしっかり残業代を支払う、また、疲労がたまっていると思われる職員に対しては休暇を取らせる、難しい勤務にはそれなりの手当をつける、などの対策が必要な事はいうまでもありません。

女性従業員の保護

第四に、旅行会社では、女性従業員に対するセクハラが問題になるケースがよくあります。男性社員の中には、セクハラ行為は行っても違法ではないと考える人もいるかもしれません。このような人が繰り返しセクハラ行為を行い、問題を起こします。会社としては、セクハラに関する教育を行う、被害に遭った女性が相談しやすい様な相談窓口を設ける、万が一、被害が発生した場合には、男性社員をかばって揉み消したりせずに断固とした処分を行うなどの対応が必要となります。

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