給与計算ラボ

業種別の給与計算の注意点

デザイン事務所の給与計算 - 専門業務型裁量労働制や年俸の対応

デザイン事務所の給与計算の特徴としては、給与計算や労務管理がおろそかになりがちになること、専門業務型裁量労働制が適用できること、賃金に関して年俸制を採用する場合には割増賃金の計算の際注意が必要であること、職員がデザイナーである場合には賃金額の設定や手当の設定を工夫すること、長時間労働に注意すること、などが挙げられます。

まず、第一については、専門の担当職員を置く場合は別として、規模のそれほど大きくない普通のデザイナー事務所であれば、大半はデザイナーである事務所長が給与計算や労務管理を担当します。その場合、事務所長は本業であるデザイナーの仕事に追われて、そういった業務はおろそかになる事が普通です。

また、デザイナーとして優秀でも、また、優秀であるがゆえに、給与計算といった事務系の仕事が苦手だと言われる方も相当いると思います。したがって、特に小規模の事務所においては、給与計算や労務管理がおろそかになる傾向があります。このことについては、今はそういった事業所の、給与計算などのアウトソーシングがだいぶ進んでおり、業務受託会社も数多くありますから、その中で信頼に足る会社を選んで、業務委託を検討することが一番良いかもしれません。普通、そういった受託会社はその他の労務管理の手続きの受託や、労務に関する相談も受け付けておりますから、そういう点でも安心です。

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労働時間の管理と残業

第二については、デザイナーの業務は、労働基準法第38条の3によって規定されている専門業務型裁量労働制適用できる業務に該当します。この制度は、労働時間ではなく労働の成果により報酬が決定される専門的業務について、労使協定で必要な事項を定めた場合に、実際の労働時間数にかかわらずに、労使協定で定めた一定の時間労働したものとみなす制度のことであります。これは、適切に運用されれば、使用者側は、普通の残業代の未払いの際によく出てくる言い訳、すなわち、残業代を含めて割高の基本給を支払っているから、残業代は支払う必要はない、ということを堂々と主張できます。

基本給の計算に残業代を含めるという発想は、仕事の成果により報酬を定めていて、その成果の達成には残業が必要だからその分基本給を割高に支払う、という事を意味するからです。労働者の側にも、労働時間の概念から解放されますから、出勤・退勤の時間は自分で決められるようになり、遅刻や欠勤について悩むことはありません。

もちろん、成果により報酬を決定する場合には、その基準が不明確になるなどのデメリットはありますし、労働者に残業手当を支払うことなく長時間の時間外労働を強いることになる可能性もあります。しかし、基本的な事項は労使協定で定めますから、そうなる可能性は相対的に低いと言えます。いずれにしても、この制度が利用可能で、かつ、この制度の利用が労使双方のメリットとなる場合には、導入を検討することもよいと思われます。

年棒制など、成果重視の給与体系

第三については、デザイナーのようなクリエイティブな仕事では、賃金の形式として、年俸制を採用する場合もあるかと思われます。この場合の割増賃金の計算には、特に注意が必要です。それは、通常、割増賃金の計算の際に算定の基礎となる賃金(時給単価を計算する際に使用される賃金額)には、賞与は含まれません。額が確定していないし、また1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当するからです。

ところで、年俸制と言っても1年に1回、賃金の全額をまとめて支払うことは、労働基準法上の毎月1回以上、一定期日に支払わねばならないという原則に違反しますから、例えば、全額の12分の1を毎月一定期日に支払うというようにしなければなりません。

この場合で、よく、賃金の16分の1を月給的に毎月一定期日に支払い、その16分の2を夏と冬の年2回、賞与的に支払う場合があります。この場合の賞与は、名称は賞与ですが、額が確定しており、また、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当しないため、割増賃金を計算する際には、その計算の基礎となる賃金に含めなければなりません。これがよく間違われるので、注意が必要です。なお、先に述べました専門型裁量労働制を採用している場合には、残業代の支払という事がありませんから、ここで述べたような問題は起こりません。

技能職の待遇とデザイナーの健康管理

第四に、事務所の職員が、デザイナー業務に従事する場合には、技術職ですので、賃金や手当の設定に工夫をして、職員の技能向上や意欲向上に結び付くように配慮することが重要です。報酬を時間によらず成果に基づいて行うというのもその一つの方法になります。また、各種の技能手当や資格手当を設定することも、技能や資格の取得を促進し、事務所全体のレベルの向上に役立ち、生産性の上昇と収入アップにつながります。

最後に、デザイナーの仕事は、場合によっては極端な長時間労働になる場合もあります。そうなった場合には、先に述べた裁量労働制の導入していたような場合には、それが裏目に出て、かえって労働者の健康を損ねる結果となる場合があります。

労働時間によらず成果により報酬が定まる世界だと言っても、長時間労働により労働者が健康を損ねないようにする使用者の義務は当然に存在します。ですから、事務所長などは、職員が極端な長時間労働に従事しているような場合には、業務を変更するだとか、休暇を取らせて疲労を回復させるだとかいう、適切な措置を取る必要があります。

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