給与計算ラボ

給与計算、社会保険と税金の知識

要注意!本当に注意すべき実際にあった給与計算のトラブル パート2

給与計算において、社会保険料の計算は重要に重要です。

社会保険料は、会社と従業員である被保険者の折半負担ですが、被保険者が負担する保険料は、毎月支払われる給与や賞与などの報酬に比例した金額です。

しかし、実際に支給される報酬は毎月変動があるため、保険料や給付額の計算に手間がかかります。
社会保険では、その手間を省くため計算用の枠を設け、これを「標準報酬月額」として算定の基礎としています。
標準報酬月額は、この標準報酬月額が実際の報酬額とかけ離れることのないように、1年に1回見直しが行われます。

これを「定時決定」といい、社会保険料の計算では最も大きなプロセスです。定時決定は4月から6月の報酬をもとに行われ、その年の9月から新しい社会保険料が決定されます。

今回は、この定時決定の際に起きたトラブルについて紹介しますが、まずは標準報酬月額や定時決定についての説明をしていきます。

定時決定とは

標準報酬月額は、以下のような決定・変更方法があります。

  • 資格取得時決定(被保険者の資格を取得した段階で決定されること)
  • 定時決定(年に一度、定期的にチェックされ決定されること)
  • 随時改定(昇給などで大幅に報酬月額が変動した場合に改定されること)
  • 育児休業等終了時改定(育児休業終了後に職場復帰したときの報酬の改定)
  • 産前産後休業終了時改定(産前産後休業終了後に職場復帰したときの報酬の改定)

上記のうち、最も大がかりな変更が「定時決定」です。

定時決定は、毎年7月1日現在に使用されている従業員において、基本的にはその年の4~6月に受けた報酬の総額を3で割った数を報酬月額として、標準報酬月額を決定する作業のことです。

具体的には、6月に支払う給与額が確定した時期に、4~6月の3ヶ月間の報酬額を「算定基礎届」という書類に記入し、7月10日までに行政へ郵送する、という手続きをとります。

6月に支払う給与額が確定する時期は、会社で設定する給与の締日によって異なります。例えば、末締め翌月払いのような月末締めのスタイルを取っている会社の場合は、締日から算定基礎届の提出日までに10日ほどしか猶予時間がなく、7月の初旬は目の回る忙しさに追われることになります。

忘れ去られた書類

今回紹介する会社は食品会社で、前述のような末締め10日払いのシステムを取っていました。正社員は10名と少数ですが、工場で勤務するパート社員が100名ほどいたため、算定基礎届の時期は繁忙を極めました。

しかし、社長を始め経理部門の努力の甲斐があり、何とか書類を完成させ、社長のチェックを経たうえで、期限内に算定基礎届を提出することができました。

喜んでいたのもつかの間、経理部門のある社員が、机の端に無造作に置いてある書類の束を見つけて、真っ青になりました。
その書類とは、「月額変更届」でした。7月に随時改定が行われる社員の変更届が忘れ去られていたのです。
随時改定とは、昇給や残業代、通勤費の増減などで、大幅に報酬月額が変更した場合に、年に一度の定時決定を待たずして行われる改定のことです。

この会社では毎年4月に昇給が行われているので、随時改定の対象となった社員がたくさんいました。大幅に報酬が増加し、その状態が3ヶ月続いた場合には随時改定が行われます。今回は4月に報酬が変更になったため、7月の随時改定に該当する社員が大量に発生したのです。

7月月変には注意

7月の随時改定のことを専門用語で「7月月変」と呼びますが、実はこの7月月変、非常に注意が必要なのです。
なぜなら、7月月変の対象者は、定時決定の対象から除外されるためです。定時決定は、4~6月の報酬をもとに行われ、計算された社会保険料は、その年の9月から翌年8月までの期間に反映されます。

ところが、7月、8月、9月に随時改定が行われる社員の場合は、随時改定が行われた直後である9月に更に定時決定による金額変更が行われます。つまり、短期間に2回も社会保険料の計算を行うことになるため非常に手間がかかります。
そのため、7~9月のいずれかに随時改定される社員については、定時決定の対象から外れています。こうした社員の場合は、算定基礎届に「7月月変」と記入し、別途「月額変更届」を提出する必要があります。

月額変更届は、随時改定が発生する都度記入する書類ですが、7月月変に限っては同時期に算定基礎届の提出があるため、提出を忘れてしまうことが多いのです。この会社も多数の算定基礎届の提出に追われているうちに月額変更届の提出を忘れてしまったのでしょう。

しかし、提出するつもりで書類を記入し、机に置いておいたことがかえって幸運でした。月額変更届を記入することすら忘れるケースも多々あるからです。

まとめ

このように、定時決定はすべての社員が対象となるわけではなく、今回の随時決定対象者のようにあわせて別の書類が必要になるケースがあるので注意が必要となります。

算定基礎届や月額変更届の提出は、社会保険を支払う社員の報酬額に応じた適正な保険料を納めるために必要な作業です。算定基礎届の額が適正でない場合や提出を怠った場合は社員の将来の年金給付額に影響が出てしまうため、事前に予定表や提出書類チェックリストを作成するなど対処法を取りながら、必ず期限内に提出を行うようにしましょう。

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