給与計算ラボ

給与計算の方法、流れ

マイナンバーで変わるの?副業をしている従業員の給与管理

2015年秋から12桁のマイナンバーの通知がはじまりました。2016年から従業員の給与管理に関する各種書類にマイナンバーの記載が必要となり、会社の給与管理業務も変化します。会社に副業をしている従業員がいる場合にはどのような影響があるのかとりあげます。

アメリカの映画でよく「社会保障番号」という言葉が出てきますが、マイナンバーはこれと同じような働きをします。つまり、ひとりひとりの社会保障・税・災害補償をきちんと管理して、救済から漏れて困窮する人のないように設けられました。
個人には各種手続きが簡略化され、添付書類をそろえる手数料が節約できたりするメリットがあり、経営者側にとっても給与管理に関わる各種申請や添付書類の軽減などで便利さを享受できるものです。

行政にとっては国民ひとりひとりの社会保障・税・災害補償について一括管理できるため経費や人員の節減につながるとともに情報の集約によって漏れや重複を避けるメリットがあります。
この情報の集約という点において、従業員が他の事業者など複数個所から収入を得ているような場合、会社側ではどのように管理しなければならないのでしょうか。

1. 何もしなくてよい

副業をしている従業員の給与管理についてどうすればよいのかということについて、結論からいいましょう。実は、特別なことは「何もしなくてよい」のです。
従業員は2016年からの給与所得やその他の収入がマイナンバーで行政側に一括して認識されることになります。ですから副業に関してのマイナンバーの影響は2015年分の副収入には無関係です。では2016年からの副収入についてはどうなるのか、会社はどう管理するのでしょうか。
これも結論は同じです。他の従業員同様に2016年1月から給与に関する各種書類にマイナンバーを記載し、給与の計算をし、管理をすればよいのです。

何かをするのは会社ではなく副業をしている従業員のほうです。副業をしている従業員は、御社の源泉徴収票と他社からの源泉徴収票、または他の収入を証する書面にある所得の額を合算して確定申告をし、税金を払いますが、これはマイナンバーがあってもなくてもすることです。違いは申告書にマイナンバーの記載欄ができますので、そこに通知されたマイナンバーを記載するだけです。
ただし、副業の収入を隠して税金の払いを逃れようとしても、副業の事業主からもマイナンバーを通して行政に所得が報告されていますから、脱税ができなくなる、という違いはあります。

ですから、給与を支払っている側の会社は他社の給与の分まで計算も管理もする必要はありませんし、することはできません。これはマイナンバーの制度があってもなくても同じです。
これまで同様、副業をしている従業員の分の年末調整は御社がしてもよいし、従業員がしなくてよいと言えば源泉徴収票を渡すだけでかまいません。いずれにしても従業員自身が確定申告をして税額が決定するからです。つまり従業員の副業については給与管理上、気にすることはありません。

そもそも、従業員が副業をしているか否か、会社が把握することはできるでしょうか。多くの企業が就業規則で副業の禁止を謳っていますが、ある統計によれば全国ではいつの時代も10%前後の従業員が副業をしています。
また、インターネットビジネスの発達した現在、通勤の不要な副業は増えており、従業員の副業は趣味の延長と区別もつきにくく、会社側からの副業の把握は一層困難なものになっています。その点からも副業について給与管理をすることは現実的に無理なことであるといえるでしょう。

2.従業員の立場でのマイナンバーと副業 

~副業が会社に知られてしまう?~

マイナンバーが採用されたせいで、会社に隠しておきたい副業がわかってしまうことはあるのか、戦々恐々としている会社員も多いようです。
ある従業員の住民税が同程度の給与の者と比べて高い数字で役所から通知されてきた場合、会社ではその従業員は給与以外の収入があるのだろうと、見当がつくことがあります。
副業先の事業主も、本業で使用しているのと同じマイナンバーを記載して給与支払いをしますので、役所は容易に同一人物の本業副業両方の所得を知ることができ、その合計額に対する住民税を本業の会社に通知してくるからです。
しかし、住民税が多いからといって、それが必ず副業をしている証拠とはなりません。住民税は前年の所得に対してかかるものですが、所得には色々種類があり、何も副業所得とは限りません。持っていた森林を伐採して売った所得かもしれません。それらはあくまで個人の資産情報です。会社はなぜ住民税が高いのかまでは把握できませんし、従業員も自身の財産状態を会社に言う必要もありません。

マイナンバーで全所得を把握できるのは、あくまで行政側です。国民ひとりひとりに、きちんと税金を払ってもらうためです。いくら雇い主といっても会社と従業員は民間人(会社も法律上、人です=法人)どうし、従業員のマイナンバーを知ったからといって資産状況まで覗き見することはできないのです。

3.副業の可否 給与管理を超えた従業員管理の問題

ところで、従業員は副業をしてもよいのでしょうか。マイナンバー制度下でも副業をしている従業員の給与管理に違いはない、とわかったところで、余談ながら給与管理を超えた従業員の管理についてはどうしたらよいでしょうか。
民間企業において、法律上副業を禁じる規定はありません。ですから従業員が御社に雇用されながら他で副業をしても法律上は違法行為ではありません。

しかし、御社と従業員はたとえ契約書がなくても互いの意思が合致して就業していれば雇用契約を結んでいます。そこで、就業規則に「副業の禁止」規定がある場合に契約違反として問題にすることができます。
解雇や停職、注意、減給、その他の罰則があればそれに従い、副業のせいで本業に損害が生じたら損害賠償を請求する、というのが杓子定規に考えた場合のとり得る手段です。不良従業員など経営者の目に余る場合にはこういう手段も時には必要かもしれません。

ところが多くの副業の実態は、生活のためや趣味の延長など個人的事情で、会社に損害を加えるようなものではありません。そして経営者には耳の痛いところですが給与が高ければ多くの場合副業はしないかもしれないのです。
長い不況を経てアベノミクスが個人収入にまで好影響を与えるにはまだ不十分の現在、副業は時代とともに「禁止」から「管理」すべきものに変わってきています。一律に禁止するよりも、大切な従業員を失わないために、本業に無理のでない範囲で副業を認める企業が増えているのです。

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