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給与計算、社会保険と税金の知識給与計算の方法、流れ

新米人事担当者必見!給与明細の作成方法と毎月行う業務マニュアル

この記事では新たに人事の仕事をすることとなった担当者や、最近従業員を雇ったばかりの会社に向けて給与明細の作り方と、人事管理に関する業務の流れについて記述しています。

給与明細は計算が間違えていたり、項目が違っていたりすると大変なことになる一方で、所得税や社会保険料など様々な法律、異なる役所が対応しておりとてもややこしくなっています。

この記事を読んで正確かつ効率的な業務ができるようになっていただければと思います。

給与支払いに関する業務の流れ

従業員に対して給与を支払う場合は、給与明細を交付する必要があります。給与明細には、その月の給与の算出の根拠となる「労働時間」、会社から支払われる「支給金額」、そして税金や保険料など給与から控除して会社が預かる「控除金額」を記載する必要があります。

そのためには給与の計算が全て終わっていなければ各金額が確定しませんので、作成することができません。

給与計算及び給与の支払いに関連する業務は、基本的には以下の流れとなります。

業種や職種に関わらず基本的には同じ流れですので、どの会社でも当てはまる内容なのではないでしょうか。本記事後半で詳しく解説していますので、業務漏れのないように確認してもらえればと思います。

  • 出勤簿を利用して労働時間の集計
  • 時間外労働の集計、計算
  • 各種手当の計算
  • 社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)の計算
  • 労働保険料(雇用保険、労災保険)の計算
  • 所得金額、所得税の計算
  • 住民税の計算
  • 給与明細の作成・従業員への交付
  • 賃金台帳への記録
  • 銀行への振り込み指示

(囲み枠)給与明細の発行義務について

給与明細は、従業員が一人でも入れば作成義務のある法定三帳簿と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」とは違い、厳密には法律にて交付義務が定められているわけではありません。しかし、給与から控除した保険料等を従業員に通知する義務はあるため、書式は自由ではありますが毎月の給与の明細を発行する義務があります。そのため、本記事では給与明細を法律で交付が義務付けられていると表現しています。

給与計算、給与明細の作成業務の詳細

それでは、給与計算の各業務について詳しく解説していきます。

まず支給する賃金を計算する必要があります。

毎月支給する給料には基本給の他に残業代や各種手当がありますよね。そして、それを計算するためには勤務時間を把握する必要があります。

支給額の計算についてはこちらの記事を参照してください(008-2記事)

社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)の計算

社会保険料には健康保険、介護保険と厚生年金保険に分けられます。

保険証(健康保険、介護保険)と、年金(厚生年金保険)とイメージすればわかりやすいでしょう。

どちらも、正社員及び一定の条件を満たすアルバイトの場合は加入義務があります。複数の企業から給料を受け取る場合も、条件を満たすすべての会社において加入を行う必要がありますが、その場合は「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」という書類を主たる事業書を通じて提出する必要があります。なお、給与計算には影響がなく、主たる事業所でも、従たる事業所でも、同じ計算で控除額を計算します。

参考:日本年金機構 | 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html

なお、社会保険料は「労使折半」で負担することとされており、例えばある従業員の社会保険料が10万円だった場合は会社が5万円を負担し、従業員が5万円を負担することとなります。そして、給料からの控除額は5万円と給与明細に記載することとなります。

それぞれについて、詳しく解説していきます。

健康保険、介護保険について

健康保険料は「標準報酬月額」に応じて1等級から50等級までの等級に分類され、各等級の納付金額が「保険料額表」により定められています。なお、この保険料額は会社が加入する健康保険組合や都道府県により異なります。自社が所属している健康保険組合の税額表を確認してください。

なお、扶養家族が増えることで保険証を複数人に対して発行することとなりますが、それにより保険料があがることはありません。扶養人数に関わらず、標準報酬月額に基づく税額表の金額となります。
標準報酬月額は毎年の4~6月の給与の平均額を使用します。基本給に加えて、通勤手当などの各種手当も加算した金額で算出するため注意が必要です。

なお、4~6月の給与の平均額を算出することのできない入社したばかりの社員の場合は基本給(入社時点で支給が決まっている手当を含む)+交通費が標準報酬月額となります。

介護保険は40歳以上の従業員の場合に加入・支払い義務が発生します。正確には、40歳を迎える誕生日の前日が属する月の給与分からが支払対象となります。税率、税額については健康保険同様に標準報酬月額により税額表に示されている金額となります。

また、65歳を超える従業員の場合は国民年金から介護保険料が徴収されますので、65歳の誕生日の前日が属する月以降は給与からの控除及び保険料の支払いは不要となります。

厚生年金保険について

厚生年金保険も「標準報酬月額」により保険料が決定されますが、健康保険と異なるのは等級が1等級から39等級に区分されているということです、ただ、考え方などは同じですので、健康保険同様に従業員ごとの標準報酬月額を決定し、その上で料率表に示される金額を給料から控除し、納付することとなります。
控除した社会保険料については、事業主負担分も合わせて翌月末日までに毎月納付を行う必要があります。

(囲み枠)標準報酬月額について

なぜ標準報酬月額という制度となっているかというと、毎月変動する給与支給額から計算を行うことは保険料納付書の発送や申告等の手続きを考えた場合に事務処理が煩雑になるためです。特に、パソコンが普及する以前は計算や納付なども手作業で行っていたため、このような制度のおかげで1年を通じて毎月の納付額が一定となり負担が軽減されています。

(囲み枠)会社が従業員負担分も納付したい場合

福利厚生の一環として会社が従業員負担分も含めて負担することや、半分ずつの保険料の一部を負担することを考えている会社もあるかもしれません。しかし、そのような場合は本来授業員が負担する文を会社が負担した金額については従業員の所得として取り扱われるため、社会保険料、労働保険料、所得税額などが上昇することとなります。

労働保険料(雇用保険、労災保険)の計算

労働保険とは、雇用保険と労災保険(労働者災害補償保険)を指す言葉です。この労働保険も含めて、社会保険と総称することもあります。

雇用保険料は雇用主(会社)と従業員が双方で負担しますが、労災保険は全額雇用主が負担します。なお、保険料率は業種によって異なりますが、基本的には以下の金額です。

事業主負担率 従業員負担率
雇用保険 0.6% 0.3&
労災保険 0.3% 0%
合計 0.9% 0.3%

※雇用保険率および労災保険率は業種により定められています。また、年度により改定が行われることがありますので、最新の情報をもとに自社の保険料率を確認するようにしてください。
(参考)厚生労働省 | 令和3年度の労災保険率について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html

この保険料率を「賃金総額」にかけ合わせた金額が労働保険料として納付する金額となります。賃金総額は各種手当、賞与、奨励金など従業員に支払う全ての金額の合計となりますので、給与計算の支給合計額から計算すればよいということになります。

労働保険料は1年分をまとめて納付し、翌年分の概算保険料も納付することとなっています。この手続を「年度更新」と言います。社会保険料のように毎月納付の必要はありませんが、まとめての納付に備えておく必要があります。

所得税の計算

所得税の源泉徴収と年末調整の関係

所得税は毎月の給与から雇用主が源泉徴収して納税を行いますが、各従業員の最終的な所得税額は一年間を通じた所得(給与等の収入から各種控除を挽いたもの)に対して累進税率により課税されます。控除には医療費控除や生命保険料控除など様々なものがあり、その合計金額は年が終わらないとわからないため、所得税額は一年が終わってから初めて確定します。

しかし、所得税は雇用主が毎月の給与から特別徴収を行うこととなっているため、まずはある程度概算の金額を徴収することとなっており、一年が終わってから年末調整という形で最終的な所得税額との差額を還付又は徴収することとなっています。なお、所得税における1年とは1月1日から12月31日であり、年末調整は1月末までに行うこととなっています。

甲欄、乙欄、丙欄の選択

所得税の計算は源泉徴収税額表に基づいて行いますが、「甲欄」「乙欄」「丙欄」という3種類の税額が規定されています。どの欄を使用して計算するかどうかは自由に選べるものではなく、下記の条件により決定されます。

甲欄 主たる給与の支払先であり、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している者。
乙欄 甲欄、乙欄に該当しない場合
丙欄 日雇賃金(労働した日ごとに支払いがあり、継続して2ヶ月を超えないもの)場合

一つの事業主のみから給料の支払いを受けている従業員の場合はほとんどが甲欄に該当することとなります。複数の雇用主から給料の支払いを受ける場合は、主たる給与の支払先(給与取得者の扶養控除等申告書を提出している先)は甲欄、その他の給料は乙欄で計算します。ですので、従業員から給与取得者の扶養控除等申告書の提出があれば甲欄、他の雇用主に提出している場合は乙欄となります。なお、給与取得者の扶養控除等申告書は一つの雇用主にしか提出することができません。

丙欄はその日払いの日雇い労働等の場合に適用され、所得税額が安いのが特徴です。ただ、継続して2ヶ月を超えて給料が発生する場合は乙欄となります。

税額表は国税庁のウェブサイトに最新の情報がありますので、対象年月にあったものを使用するようにしましょう。
参考:国税庁 | No.2511 税額表の種類と使い方
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2511.htm

所得税額の計算

所得税は社会保険料等控除後の給与等の金額により計算を行います。具体的には、課税対象の給与から、社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)及び労働保険(雇用保険)を控除した金額です。なお、通勤交通費は非課税枠があり、通常の定期券などであれば基本的には非課税ですので課税対象の給与には含まれません。
ですので、一般的には

社会保険料等控除後の給与等 = 支給金額 – 非課税交通費 – 社会保険 – 労働保険

となります。

この金額をもとに、税額表で所得税額が決定されます。

なお、甲欄の場合は扶養人数に応じて税額が異なることとなっています。ですので「給与取得者の扶養控除等申告書」の扶養人数を確認した上で該当する人数の税額を適用します。

所得税における扶養控除は扶養対象によりその控除額が異なるなど複雑ですが、毎月の源泉徴収では単純に人数のみにより計算を行います。実際の税額との差異は年末調整で調整されることとなります。

また、甲欄適用の場合は税額表ではなく計算式により税額を算出することも可能となっています。エクセルや給与計算ソフトなど、電算機(パソコン)を使用して計算を行う場合はこちらのほうが便利です。

参考:国税庁 | 月額表の甲欄を適用する給与等に対する税額の電算機計算の特例について(令和3年分)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2020/data/denshi_10.pdf

上述したように、甲欄の源泉所得税の計算方法は「税額表を用いる方法」と「計算式によるもの」の2つが存在し、その所得税額は完全には一致しません。どちらの計算方法で納税しても問題ないこととなっておりますので、納税額が異なると従業員などから指摘を受けた場合は異なる計算方法で計算していないかどうか確認するようにしましょう。

なお、この納税額の違いも最終的には年末調整により全て調整されることとなりますので、計算方法の違いにより不利益を受けることはありません。

住民税額の計算

住民税は今まで見てきたような控除項目とは異なり、前年の給与支給額に基づいて計算されます。金額は従業員が住所をおいている市区町村により異なり、その住民税額は市区町村から通知があります。住民税は6月から翌5月で1年間となっており、5月中に「特別調整額決定通知書」が送付されますので、その通知書に書かれた金額を会社では給与から天引きすることとなります。

(囲み枠)住民税に関する事務手続きの注意点

納付先などは全て従業員が住所を置く市区町村となるため、複数の市区町村とのやり取りが必要となるので処理の忘れなどには注意が必要です。毎年1月末までに「給与支払報告書」を提出することや、従業員の退職、休職などがあれば翌月20日以内に「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出することを忘れないようにしましょう。

なお、住民税は4月1日時点で在籍しており、引き続き在籍している従業員に対して特別徴収という形で給料から控除して支払う必要がありますが、4月1日移行に入社した従業員の場合は従業員が自ら納付を行う普通徴収と、会社が納付を行う特別徴収を選択することが可能です。通常は普通徴収となりますので、特別徴収を行う場合は「特別徴収への切替申請書」などの書類を市区町村に提出することとなります。

給与明細の交付・振り込み、賃金台帳への記録

上記で給与明細のすべての項目についての計算が完了できました。

給与明細を作成し、従業員に対して交付するとともに給与を支給します。給与は手渡しと銀行振込のどちらでも可能となっていますが、現在はほとんどの会社が銀行振込で行っているのではないでしょうか。そして、賃金台帳への記録も忘れないようにしてください。この賃金台帳は法律により作成と3年間の保管が義務付けられているとても重要な文書です。

給与明細の作成方法と毎月行う業務マニュアルのまとめ

以上が、毎月行う給与に関する人事業務の一覧、及び進め方です。

全てが一つとして欠けてはいけない重要な項目ですし、計算ミスがあってはならない仕事です。また、税額や税制度は毎年のように変更されるため、常に最新の情報を知ることも重要です。

なお、給与計算ソフトを使用することでほとんどの計算や給与明細の交付などを自動化することも可能です。無料で使えるものもあれば、月1000円程度のもの、更に高額なものなど様々なソフトがありますが、無料のものでもかなり業務負担は軽減されます。こちらも活用を検討してみては良いのではないでしょうか。

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