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給与明細の作成方法[前編]~勤怠管理、支給額の計算方法

「給与明細を作ることになったけど、どうやって作ればいいのかわからない・・・」

「教えてもらったやり方で作っているけど、それぞれの作業の意味が実はわかっていない・・・」

「もっと効率の良い給与明細の作り方はないだろうか・・・」

そんな悩みを抱えている給与計算担当者の方、いらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、そんな方に向けた記事です。

給与計算をするにあたり必要な勤怠管理から、給与計算後に行う手続きまで、かなり細かく解説しました。給与計算をしたことがない方はもちろん、普段業務で行っている方も改めて確認して頂けると何らかの発見があるはずです。

それでは、給与計算にまつわる業務内容の全て、解説していきますね。

労働時間の集計、時間外労働賃金(残業代)の計算

はじめに行うのが労働時間の集計です。

出勤簿と呼ばれる、各従業員の勤務時間を記録した資料を用意します。

出勤簿は法律により作成、保管することが義務付けられている書類であり、タイムカードなどの客観的な記録、もしくは従業員の自己申告により作成される必要があります。

この出勤簿をもとに労働時間を集計し、残業代を集計します。

労働時間集計時の計算について

タイムカードなどで記録した時間を15分単位や30分単位で丸めることがありますが、労働時間については基本的に切り捨て不可と定められています。ですので、全て切り上げで計算することとなります。なお、労働時間計算の原則は「分単位」で行うこととなっているため、分単位で残業代を計算することは全く問題ありません。

なお、一ヶ月の労働時間を全て分単位で計算した後に、1ヶ月分の合計に対して数字を丸める場合のみ29捨30入、つまり30分未満の時間を切り捨てるかわりに、30分以上の時間を1時間として計算することが認められています。

法定割増賃金について

残業代は下記の条件に合致する場合は割増賃金を支払うこと、と法律により定められています。

時間外労働に対する割増賃金

法定労働時間を超えて労働した分については「2割5分以上」の割増賃金を支払う必要があります。法定労働時間は1日8時間、もしくは週40時間と定められており、どちらかを超えている分については全て割増が必要となります。

なお、就業規則等において勤務時間が7時間半など8時間に満たない場合で設定されている場合や、時短勤務対象者などの場合、時間外労働ではない残業が発生することとなりますが、そのような場合では割増賃金を支払う義務はありません。

また、月60時間を超えた時間外労働の場合は「5割以上」の残業代を支払う必要がありますが、中小企業の場合は2023年4月からの適用となり、それ以前は猶予となっています。

ですので、労働時間集計の際は「1日8時間、又は週40時間を超えた労働時間」及び「月60時間を超えた”時間外”労働時間」わかるようにすることが必要です。

※一部特例で法定労働時間が週44時間となる事業所も存在します。

深夜労働に対する割増賃金

深夜労働に該当する分については「2割5分以上」の割増賃金を支払う必要があります。深夜労働時間は22時から翌5時と定められております。シフト制の場合や、夜勤の場合であっても深夜労働の場合はすべて割増賃金を支払う必要もあります。また、「深夜」という言葉から0路を過ぎた残業代というイメージを持っている方もいるようですいが、22時以降ですのでご注意ください。

深夜時間帯であり、且つ、時間外労働の場合は両方の割増賃金を支払う必要が出てきます。その場合は「2割5分増」+「2割5分増」=「5割増し」となります。

動労時間集計の際には、全ての労働時間の内深夜労働に該当する時間がわかるようにするとよいでしょう。

休日労働に対する割増賃金

休日労働に該当する分については「3割5分以上」の割増賃金を必要があります。ここで注意したいのは「休日」の定義。法定休日は週1日、もしくは変形休日制を採用している場合は4週間で4日とされています。ですので、週6日までの労働については休日労働扱いとはなりません。

また、休日労働の時間には時間外労働の割増の25%が適用されないこととなっていますが、深夜労働の割増は適用されることとなっています。

法定割増賃金の計算式

「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」それぞれの労働時間が確定すると、以下の計算式で賃金の計算が可能となります。

賃金=基本給+残業代などの割増賃金

  =基本給+時間給×(1×残業時間数+0.25×60時間を超えない、かつ休日ではない時間外労働時間数+0.25×深夜残業時間数+0.35×休日労働時間数+(0.5×60時間を超えた時間外労働時間数※))

  =基本給+時間給×(1×残業時間数+0.25×時間外労働時間数+0.25×深夜残業時間数+0.1(※1)×休日労働時間数+(0.25×60時間を超えた時間外労働時間数※2))

で計算されます。

残業時間数は時短勤務従業員等の場合は法定労働時間内の残業も含まれる可能性があることから、時間外労働時間数とは別という扱いとしました。このため、上記計算式であればほぼすべての従業員にできようできるのではないでしょうか。

(参考)時給制の従業員の場合

賃金=時間給×(1×労働時間数+0.25×時間外労働時間数+0.25×深夜残業時間数+0.1(※1)×休日労働時間数+(0.25×60時間を超えた時間外労働時間数※2))

(参考)みなし残業代が20時間と定められている場合

賃金=基本給+みなし残業代+時間給×(1×20時間を超えた残業時間数+0.25×時間外労働時間数+0.25×深夜残業時間数+0.1(※1)×休日労働時間数+(0.25×60時間を超えた時間外労働時間数※2))

※1:計算式中の0.1について

0.25×休日ではない時間外労働時間数+0.35×休日労働時間数=0.25×時間外労働日数+0.1×休日労働時間数

※2:60時間を超えた時間外労働時間にと休日労働の計算式ついて

中小企業の場合は2023年3月までの給与に関しては割増が免除とされているため、カッコ内については計算する義務はありません。60時間を超えた時間外労働時間の割増率は5割ですが、下記のように計算式上では時間外労働時間数として25%の割増を計算した上で、更に25%を追加することで5割の割増と計算する計算式を例示しています。

0.25×月60時間を超えない時間外労働時間数+0.5×60時間を超えた時間外労働時間数

=0.25×時間外労働時間数+0.25×60時間を超えた時間外労働時間数

参考:厚生労働省 | 法定労働時間と割増賃金について教えてください。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei07.html

残業代算出の基礎となる時給の計算について

全ての残業代は「時給」により計算されますので、月給で支払いを行っている従業員それぞれに対して時給を設定する必要があります。

時給は「基礎賃金」を「月平均労働時間数」で除して(割り算して)決定されます。

「基礎賃金」とは、各種手当を含む給与から以下の7項目を除外した金額です。

  1. 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給するもの)
  2. 通勤手当(通勤交通費で実費に応じて支給するもの)
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当(住居費用に定率を乗じて支給するもの)
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごと西は割られる賃金

カッコ書きをしたものは、定額支給のものについては除外対象外(つまり、残業代の計算上参入される)となるので要注意です。

参考:厚生労働省 | 割増賃金の基礎となる賃金とは?

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-5.html

「月平均労働時間数」は、年間勤務日数÷12×一日の所定労働時間で求められます。

年間勤務日数は365-年間休日ですので、

月平均労働時間数=(365-年間休日日数)÷12×一日の所定労働時間

となります。

(囲み枠)固定残業代(みなし残業代)について

最近では週20時間までの残業代をみなし残業代として一律に支給する企業なども増えてきています。その場合は就業規則に明記されている必要があります。

みなし残業代を支給する場合でも、定められた時間外労働時間を超える分の残業代の支払い義務はあります。また、深夜労働や休日労働に該当する場合は追加で割増賃金分を支払う必要もあります。残業代が定額となるわけではありませんのでご注意ください。

賃金の計算例

例えば、週5日×4時間勤務のAさん(月給14万円/手当なし)の給与を計算する場合、以下のようになります。

・カレンダーで出勤日の確認:今月は21日だったとする

・所定労働時間=21日×4時間=42時間

・実労働時間はタイムカードを集計し、53時間であった。そのうち、深夜労働時間は2時間、休日労働時間はゼロ、一日8時間又は週40時間を超えた労働時間は1時間だったとします。

その場合、残業時間(月給の基礎となる所定労働時間を超えた分)は以下の通りと整理できます。

・残業時間(所定労働時間を超えた時間):11時間

・残業時間の内、時間外労働時間(法定労働時間を超えた時間):1時間

・全ての勤務時間の内、深夜労働時間:2時間

・休日労働時間:ゼロ

この会社の年間休日が110日だった場合、Aさんの時間給は以下のように計算できます。

時間給=基礎賃金÷月平均労働時間数

   =基礎賃金÷((365-年間休日日数)÷12×一日の所定労働時間)

   =14万円÷(365日-110日)÷12×4時間

   =14万円÷85時間

   =1,647円

賃金は以下の計算式で求められます。

賃金=基本給+時間給×(1×残業時間数+0.25×時間外労働時間数+0.25×深夜残業時間数+0.1(※1)×休日労働時間数+(0.25×60時間を超えた時間外労働時間数※2))」

=14万円+1,647円×(1×11時間+0.25×1時間+0.25×2時間+0.1×0時間+0.25×0時間)

=14万円+1,647円×11.75

=14万円+19,352円

=159,352円

となります。

このように、必要な労働時間情報をすべて集め、そして最新の法令に準拠した形での計算式が必要であるということをおわかりいただけたのではないでしょうか。

各種手当の計算

各種手当の計算を行います。

代表的な手当としては通勤手当(交通費)があります。こちらは、事前に従業員から通勤経路の申請を行ってもらい、それに基づいて定期券代など通勤にかかる実費を算出した上で決定します。一度決定してしまえば、通勤経路が変更になったり、交通機関の運賃が変更になったりしない限りは変更になりません。ですので、従業員ごとに通勤手当がわかるように記録・管理しておけば、毎月の計算時にはその数値を入力するだけでOKでしょう。

その他に、役職手当や住居手当などがありますが、全て就業規則に明示されているはずです。もし明示されていなければ、就業規則に明示する必要があります。そこで定められた基準に基づき、従業員ごとの金額を記録・管理した上で、毎月の給与計算時にはその値を入力することとなります。

上で述べたように、通勤手当の決定には従業員からの通勤経路の申請が必要となります。

入社時に通勤経路の申請が行われていない場合には、経路申請を提出して貰う必要があります。

また、その他各種手当についても、就業規則で定められ、従業員が参照できる状態になっている必要があります。

給与支払業務:給与支給額の計算、残業代算出、総支給額の確定まとめ

以上が勤怠管理と支給額の算出方法、つまり、給与支給額の計算と残業代の算出、各種手当の計算の方法でした。給与計算業務に置いては、このあとに控除額の計算を行っていく流れとなります。労働時間を算出した後の、割増賃金を計算する当たりは給与計算ソフトを導入することで自動化することもできます。

控除額の計算と、以降の手続きについては「給与明細の作成方法後編~控除額の計算方法、支給後の手続内容」の記事で詳しく解説しておりますので、合わせてご確認いただければと思います。

この記事が、給与計算を始めて行う担当者の助けになれば幸いです。

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