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給与計算の方法、流れ

給与支給の間違い、1年前の間違いは修正できるの?

給与支給の間違いは、時間が経過してから気づくことも多いのですが、1年前の給与支給ミスの修正はできるのでしょうか。

労働基準法と民法に当てはめながら、給与を過払いした場合と、支払うべき給与が不足していた場合について解説します。

労働基準法による賃金手当の請求権の時効は2年

労働者による給与の請求権の時効は、労働基準法の第115条に「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」と定められています。

簡単に言うと、労働者は給与の未払いを過去2年間に遡って企業に請求することができるのです。

賃金手当の請求権は、「具体的に権利が発生したとき」が適用されるため、給与支払期日の翌日から請求権が発生します。その日から2年後が賃金手当の請求権の時効日となります。

民法による支払い義務は10年

労働基準法の給与の請求権は、具体的に権利が発生したときから2年で時効が成立しますが、民法703条による「不当利得返還請求権」の請求権が残っています。

正当な理由がないにもかかわらず、他人の損失によって受けた利益を「不当利益」といい、「不当利得返還請求権」とは、損失をこうむった人が、利益を受けた人に返還を請求する権利です。不当利得返還請求権の時効は、具体的に権利が発生したときから10年後になります。また、不当に利益を受け取った事実を、不当に利益を受け取った人が自覚していた場合、不当利得返還請求権の時効は20年になります。

不当利得返還請求権を満たす条件

以下の4つの条件を満たした場合、損失が生じた側に不当利得返還請求権が発生します。

  • 損失者に損失が生じたこと
  • 利得者に利益が生じたこと
  • 利得者の利得と損失者の損失に因果関係があること
  • 利得者の利得に法律上の正当な原因がないこと

以上の条件を給与支給の間違いに当てはめると、企業が労働者に過払いをしてしまった場合、企業に損失が生じ、労働者に利益が生じます。企業の損失と労働者の利益に因果関係があり、労働者の利得に法律上の正当な原因がないことから、企業には労働者に対し、過払い金の不当利得返還請求権が生じます。

反対に、給与支給が不足してしまっていた場合、労働者に損失が生じ、企業に利益が生じます。労働者の損失と企業の利益に因果関係があり、企業の利益に法律上の正当な原因はありませんので、労働者は企業に対し、給与支払い不足金の不当利得返還請求権が生じます。

1年前に給与を過払いしてしまっていた場合

では、1年前に給与を過払いしてしまっていた場合はどうなるのでしょうか。

この場合、労働基準法的にも、民法的にも、企業は過払いを受けた労働者に対して、過払い分の返還を請求することができます。

給与からの天引きはできない

1年前の給与の過払い金は、過払いに気づいた時点で、次の給与からの天引きで清算してしまいたいところですが、「賃金支払いの5原則」の「全額払いの原則」に違反するため、給与から天引きすることはできません。

「賃金支払いの5原則」とは、「通貨払いの原則」、「直接払いの原則」、「全額払いの原則」、「毎月1回以上の原則」、「一定期日払いの原則」の5つの原則です。

ここで適用される「全額払いの原則」とは、賃金は全額を労働者に支払わなくてはならないという原則で、事業主の都合で賃金を控除することが認められていないのです。
従って、企業は1年前の給与の過払い金を、過払い金を受け取った労働者に対し、給与とは別に請求しなければなりません。

過払い金額が大きい場合の考慮

企業は給与の過払い金を、過払い金を受け取った労働者に請求することができますが、金額が大きく、一括払いでは労働者の生活を圧迫してしまう場合や、支払いが難しい場合があります。企業側には間違って過払いをしてしまったという過失があるわけですから、労働者の生活を圧迫しないよう労働者とよく話し合い、分割払いにするなどの考慮が必要です。

1年前に給与を少なく支払ってしまっていた場合

1年前に給与を少なく支払ってしまった場合、少なく給与をうけとった労働者に、労働基準法的にも民法的にも不足金の請求権が生じます。

企業は可及的速やかに、労働者に不足金額を通知し、不足金を支払いましょう。不足金の支払いは、現金による支払い、給与口座への振込み、翌月給与で調整金として清算することが可能です。

1年前の給与支給の間違いの修正のまとめ

1年前の給与支給の間違いは、過払いしてしまった場合、労働者に返還を請求することができますが、給与からの天引きは「全額払いの原則」に違反しますので、給与とは別に労働者に請求する必要があります。

また、労働者への支払い額が少なかった場合、現金払い、給与口座への振込み、給与での調整金としての清算が可能です。
給与支給の間違いは、企業と労働者の信頼関係を損ないかねない問題ですので、発覚した場合は、可及的速やかに清算しましょう。

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