給与計算ラボ

中小企業の給与

給与計算の観点から見た社員の昇給のタイミング

経営者視点では4月昇給は大きな間違い

年一回の定期昇給のタイミングは、一般的には4月が多いようです(反映されるのは4月の場合と、5月からの場合があります)。4月は年度の切り替わりということで、事務手続き上はもちろんのこと、気持ちの面でもキリがよく、昇格などの節目ともなりやすいためです。

そこで、深く考えずにこの時期を定期昇級の時期としている会社も少なくないことでしょう。

ところが、経営者視点で見た場合、実は4月という昇給タイミングはあまり効率がよいとはいえません。これでは、本来コストカットできるはずの部分を余分に支払ってしまうことに繋がるからです。

では、そんなコストカット可能な部分とは一体どこでしょうか。

ずばり、それは社会保険料です。

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社会保険料の決定時期を把握しておくこと

健康保険料や雇用保険料、介護保険料といった社会保険料は、事業主側と従業員側とが双方で一定の割合を支払っています。一人分は微々たる額かもしれませんが、社員全員分ともなれば、会社が負担する金額は相当なものとなります。それでいながら、多く保険料を支払ったからといって見返りの多いものでもありません。

経営者にとって、社会保険料のコストカットは経営健全化のための至上命題だといえるでしょう。

そんな社会保険料額の決定時期が、昇給タイミングを決定するうえでの重要なポイントなのです。

各種社会保険料の算出は、標準報酬月額に保険料率を掛けることで求められます。標準報酬月額は、毎年4月から6月までの給与の平均から算出されることになっていますが、これが適用されるのは同年9月からとなります。そして、一度決定した標準報酬月額は丸一年間適用され続けます。

すると、4月に昇給してしまうと、9月から翌年8月までの標準報酬月額が上がる可能性が高いということです。ということは必然的に、社会保険料の値上がりにも繋がります。

少しの工夫で大幅なコストカットを実現

しかしながら、もしここで定期昇給のタイミングを7月に遅らせたとすると、どうなるでしょうか。

標準報酬月額の算定には、4月から6月までの報酬しか反映されません。7月昇給ならば、当年の標準報酬月額には影響を及ぼさないということです。

ですから、以後1年間は前年までの社会保険料額を維持することができます。新しい社会保険料が適用されるのは翌年9月からとなり、まるまる一年間先送りすることができるというわけです。

社会保険料の値上がりは、1人分だけでも、12か月の合計ではかなりの金額アップとなります。この事実を経営者視点で見れば、なおさら話は大違いです。値上がりが従業員全員分ともなると、業績を左右しかねないほどの差額になってくることでしょう。

昇給時期をたった3か月遅らせるだけで、大幅なコストカットに繋がるというわけです。

インセンティブの扱いでも一工夫が可能

従業員への報酬は、固定的給与ばかりではありません。歩合給や変動給といった非固定的給与を報酬体系に盛り込んでいる会社も少なくないことでしょう。この場合、基本給や諸手当にインセンティブを上乗せして支払っているのが報酬総額だということになります。

さて、1年間のうち、4月から6月の期間にだけ極端に高い成績を出した社員がいたとします。このとき、この社員の社会保険料はどうなるでしょうか。

標準報酬月額の算定には、ボーナスと臨時給以外のすべての手当が含まれますから、当然ながらインセンティブも含まれてしまいます。となると、たまたま突出していただけにもかかわらず、

この社員の標準報酬月額はその突出していた時期から算出されてしまうこととなります。

これでは、社員本人にとっても会社にとっても、実態にそぐわない社会保険料を支払うことになってしまい大損です。

こうしたケースを避けるためには、インセンティブの扱いを工夫するとよいでしょう。よくあるパターンとしては、インセンティブ部分を月ごとに支払わず、ボーナスに上乗せする方法です。

すると、基本給部分だけで標準報酬月額が算定されますから、非固定的給与の変動がおよぼす影響を無視することができます。不当に高い社会保険料は支払わずに済ませたいものです。

大幅な昇給がある場合

通常想定しうる範囲内の昇給であれば、上記の方法を活用することで社会保険料は1年間据え置きにできます。

ただし、例外もあります。

基本給の大幅な改定があった場合には、社会保険料は随時改定されることに決まっているためです。ここでいう大幅とは、具体的には、30等級に分かれている標準報酬月額が2等級以上変動する場合のことです。

このケースに該当すると、社会保険料は昇給月を含めて4か月目(昇給月の3か月後)から改定されます。

2等級以上変動するような大幅昇給はめったに考えられませんが、会社経営というものは何が起きるかわかりません。

さまざまなケースを考えて昇給のタイミングを考慮する必要があります。

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