給与計算ラボ

中小企業の給与

給与引き下げの方法とタイミング

社員の給料設定に関するご質問を頂くことは多いのですが、特に多いのが下記の問題です。

  • 景気の良い時に給料を上げ過ぎた
  • 社員の希望を聞き過ぎて、給料を上げ過ぎた
  • 同業他社との人材獲得競争が激化し、給料水準が上がり過ぎた
  • 業績が好調な時に特別手当を付けて、そのままになっている

などです。

昨今の経済状況では給与負担が重く、本音では「給料を下げたい」と思っている会社も沢山あるのです。

しかし、労働基準法では「労働者が不利になる改定はNG」となっているので、会社が一方的には変更できないのです。 
再確認ですが、会社が一方的に給料を切り下げすることは法的に認められていません。

しかし、合理的な理由があれば、例外的に認められていますが、社員の同意は必要となります(多数決などでOKの場合もあり)。

この「多数決などでOKの場合もあり」というのは法的な話ではなく、裁判例でそう認められている事例もあるということです。

当然、その同意を取り付ける際には

  • 給料を下げる理由
  • 不利益となる部分
  • 現状の給与水準を維持する経過期間

などを十分な時間をかけて社員に説明する必要があります。 

実際の作業としては、

  • 就業規則や賃金規程を変更して、給料の改定案をつくる
  • なぜ改定するのかの理由を全社員に説明
  • 改定前と改定後の給料がどうなるのかを全社員、各人ごとに説明
  • 各社員から同意書をもらう

となります。

ここで重要なことは

  • 変更する合理的な理由をきちんと開示すること
  • 十分に時間をかけた説明会を実施すること

です。

これに関して参考となる裁判があります。

<三井埠頭事件 平成12年12月 東京高裁>

  • 同社は資金繰り悪化で会社更生法の適用を受けた
  • 管理職全員の給料額の20%を会社が同意を得ないままカット
  • 一方的ではあるが、通知は出した
  • カットの意思表示はしたが、同意は取っていない
  • このうち3名が給料の減額には同意していないと裁判に訴えた
  • 一審(東京地裁)で会社が負け、会社は控訴した

そして、高裁の判断は

  • 給料カットの通知という手続きは必要なこと
  • 通知だけでは足りず、社員の同意が確認できない
  • 一方的な給料カットは許されない

として会社が負けたのです。

さらに、カットした給料の支払いだけでなく、損害賠償金の支払いまで認めたのです。

会社更生法の適用を受ける状態まで痛んだ状況であっても、社員の同意を必要としたのです。

だから、給料を下げる場合は、理由の説明には多くの時間を割き、誤解の無いように進めることがとても重要なのです。

それから、よくある質問に
「何%までならカットしてもOKですか?」というものがあります。

これに法的な基準はありませんが、労働基準法の「制裁」のための給料カットの上限は10%です。

だから、10%が「1つの基準」となります。

実際、労働法に詳しい弁護士さんも同様にお話しされており、私もこの意見に賛成です。

もちろん、10%の給料カットでは経営がもたない場合もあるでしょう。

こういう場合は、

  • 10%を超える給料をカットしてでも雇用を維持する
  • 社員の同意が必要であることは同じ
  • 裁判になった場合は、10%超とした合理性の説明が必要
  • 給料カットだけではなく、整理解雇(リストラ)を実施する
  • 金融機関からの返済条件の交渉(=リスケ)

なども検討しましょう。

なかなか業績が回復せず、人件費に手をつけるしかないという場合もあります。

しかし、そういう場合だからこそ、適正な手順を踏むことが大切です。 

もし、裁判になり、上記のように損害賠償金まで支払うことになれば、
「泣きっ面に蜂」という状況になってしまいます。

もちろん、社員全員の同意が取れればベストです。

しかし、それが無理でも多くの社員(多数決など)が同意してくれればOKとの裁判例もあります。

そこはケースバイケースですが、 
「準備 → 説明 → 改定」という手順を踏むことが大切なのです。  
給料の引き下げが即座に労働基準法違反になる訳ではありません。しかし、労働条件通知書や就業規則に明記してある給料の額よりも実際に支払われる給料の額が少ない場合は、労働基準法第24条違反(給料の一部不払い)となる可能性があります。
 また、就業規則の変更に伴う労働条件の変更等については都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーをご利用ください。労働基準法11条では「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義しています。
ですので毎月支払う給料のほか、賞与や退職金なども、賃金となります。

また、労働基準法24条1-2項では給料の支払いについて、下記のように定めています。

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」
「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」

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